下座に生きる 12

「いやな、小言を言ってくれる人があるっていうのはうれしいことだよ。俺みたいに言ってくれる人が誰もいないって寂しいもんだ。それに対して文句を言うってのは贅沢だよ・・」
「なるほど、そういうことか。分かった。わしは命が続く限り、お前が言ったことを言って回ろう。お前も上手に死んで行けよ・・」
そう言って三上さんは暇乞いをしようとした。
その時、卯一が叫んだ。
「おっさん、手を握らせてくれ!」
そう言って、卯一は三上さんの右手をしっかり握った。
冷たい手だった。痩せこけているので骨が当たる。
「それじゃ、これで帰るぞ・・」
「もう行くのか・・」
「行かなきゃならん。高校で話しをすることになっている・・」
「おっさん!」
「なんだ・・」
「いや何でもない・・」
「何でもなかったら呼ぶな!」
「返事をするのが悪いんだ。呼んだって返事をするな!」
「そんなわけにはいかんがな・・」
三上さんが立ち去ろうとすると、また卯一が叫んだ。
「おっさん!」
「返事せんぞ。もう行かなきゃならんのだ!」
そう言って、後ろ手にドアを閉めると部屋の中から
「おっさ~ん。おっさ~ん」と、いつまでも叫ぶ声がした。