リクエスト 3

「今日もガソリンスタンドで働いているという自慢のお父さんへ、メッセージが届いています!」
Kさんは、うつむいたままタオルを畳む手を休めていた。
「パパ、いつもお仕事ごくろうさま! 毎日、たくさんのカッコイイ車を洗ったり、直しているパパのお仕事は”りことママ”の自慢です。寒い日が続くけど、風邪をひかないように気をつけて!。今日もたくさんの人の車をきれいにして、みんなを笑顔にしてあげてね。パパ大好きです!・・。お誕生日おめでとう!」
Kさんは、タオルを胸の前に持ったまま身動き一つしなかった。

「りこ&りょうさん、素敵なメッセージをありがとう! きっと、この寒空の下で働いているパパの心も温まったんじゃないかな!! それではリクエスト曲、ちょっと季節外れだけど、パパが大好きな曲出そうです」

しっとりと曲がかかり始めると、思い出したようにKさんは口を開いた。
「びっくりした・・・」
リクエスト曲が流れる5分間、まるでKさんを気遣うようにお客さんは一人も来なかった。
そして、曲が静かに終わるころ、1台の車がゆっくりと入ってきた。
「いらっしゃいませ!!」
いつもよく通るKさんの声は、今日もスタンド中に響き渡った。

ほんとうはこの時間、Kさんはオイル交換の予約を受けていたらしい。
作業場はラジオが聞こえない。
それで店長が「今日のオイル交換は俺がやるよ!」と叫んだ。
店長さんは、事前にKさんのご家族からリクエストのことを知らされていた。
「お前らに任せてばかりだと、いつの間にかやり方を忘れてしまうからな・・」と店長は笑った。
そんな影の応援も、素敵な誕生日のプレゼントになった。