ポジティブでいること?

つらい気持ちが消えていく 斎藤茂太 

「ポジティブデあれ!」ということに異論はないけれど、これも過ぎては不都合が生じる。
つらさに耐えながら、ようやくの思いで日々を乗りきっているような人に対して、元気づけようとする気持ちは分からないではないが。
「もっとポジティブでなきゃあ。若いんだから!」「人生、前向きで行きましょう。後ろを振り返ってはだめ!」
などと、上から目線で励ますのは控えたいものだ。
相手は、ひそかに傷つき,気持ちを逆なでにされたような腹立たしさを感じているかもしれない。

それにしても、ポジティブであること、前向きであることは、そんなに素晴らしいことなのだろうか。
実際には、ポジティブであらねばという自分への締め付けが、結局、自分の首を絞めている・・そういう図式の中で、日々息苦しい思いでいる人も増えているようにも思える。

ある女性は、職場の同僚たちには「彼女って、いつも前向きで、つらいことがあってもすぐに立ち直っちゃうよね」と、うらやましがられている。
上司に叱られても,自分のデスクに戻れば「大丈夫、なんてことはないわよ」と笑顔を見せる。
恋人に別れ話をされても「まあ、恋人なんて、またすぐにできるわ」と、前向き発言をする。
この女性は、じつはナイーブで傷つきやすい性格の持ち主なのだが、人前に出ると、つい、このような発言をしてしまうのである。
おそらく、心の中では「ポジティブでなければならない」という思いに占領されているのであろうが、そこには大いなる不安が潜んでいることもよくあるケースだ。