ボーダー模様のマフラー 2

そんなる日の家庭科の時間、確かその日は別のことをやる予定だったはずだけど、S先生が突然「今日は少し楽しいことをしましょう」と言った。
S先生は脇に抱えていた大きな紙袋から編み棒と毛糸の玉を取り出し、クラス全員に1つずつ配っていった。
「みんな、かぎ網は知っているかな?」女の子が喜びそうな編み物の授業。
それはきっと、先生なりに必死に考えた仲直りの作戦なんだと思った。
でもクラスの白けた空気が消えることはなかった。

黒板を使って一生懸命に説明するS先生を無視して、みんなで勝手におしゃべりをしたり、席を立って歩いたり、まるで教室は休み時間のような状態で、編み棒には誰一人として手をつけなかった。
結局そのままチャイムが鳴って授業は終了。
「男の子は面白くなかったかな・・・」
と先生は言ったけど、女の子も編み棒には手をつけていなかった。
さすがにひどいなと思いながら、私はS先生の姿を見守っていた。
自分が持ってきた紙袋に、配った時のままの編み棒と毛糸の玉を1つ一つ丁寧に回収してまわるS先生の目は赤かった。
「それじゃあ、来週は教科書の続きをやるから・・・」
上ずりそうな声でそう言って、足早に教室を出ていった。
S先生は明らかに泣いていた。