ハッピーバースデートゥーユー 3

カウンセリングの先生が言うには、声が出ないからといって気を使いすぎることなく、できるだけ家の雰囲気をいつも通りにしてあげることが大切らしい。
だから私が顔を出した時も、妹は「ほらタクマ、お姉ちゃんが会いに来てくれたよ!」と、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。
タクマ君は笑ったりはするのだけれど、相変わらず声を出すことはない。
それでも妹は、いつも通り気丈に明るく振舞っていた。
「ほらタクマ、アンパンマンだよ!」妹は、タクマ君にアニメを見せてあげたり、ゲームをやらせてあげるようになっていた。

タクマ君が声を失ってすでに三カ月が経とうとしていた。
その日は妹の誕生日だったので、私は両親と妹の誕生日を祝ってあげることにした。
ケーキを買って妹の家に行くと「あら、来てくれたんだ!」と、いつも通り明るく出迎えてくれる妹。
タクマ君もうれしそうに笑っていた。
妹の旦那さんも仕事から帰ってきて、私たちはささやかな誕生日会を始めた。
キッチンから持ってきたロウソクに灯の灯ったケーキが妹の前に置かれると、部屋の電気が消された。
「ようし、歌うぞ!」と父の合図。
みんなで手拍子をしながら「ハッピーバースデートゥユー」を歌い始める。
「ハッピーバースデートゥユー、ハッピーバースデートゥユー」楽しい光景だった。