ニコニコ顔で

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

私はある経験から、できるだけニコニコ顔で行こうと決意したのだ。
私の父、斎藤茂吉は歌人として名をはせたが、本業はあくまで精神科の医者。
茂吉は養子だったから、何としても先代の築いた栄光を汚すことができない。
その反動か、茂吉はいつも苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
おまけに癇癪もちだったから、家族一同いつもびりびりしていて、家の中も病院も、けっして穏やかで心地よいものではなかった。

子供心にも私は、「それではいけない」と考えていた。
それで、自分が一家の長や院長という立場に立つようになってからは、いつもニコニコ顔でいようと決めたのだ。
こんちくしょーと思うようなときも、あえて唇の端を引いて、無理にでもニコッと笑ってみる。
そうすると、さっきまで腹を立てていた自分がバカバカしく思えてきて、ニコニコ顔が定着するのだ。

顔で笑って心で泣いているうちに、心まで笑ってくるという経験を毎日のように重ねてきた。
ニコニコ顔の効用は、相手を心地よくさせるばかりではない。
笑顔を心がけているうちに、自分自身の心まで解きほぐされてくるのだ。
笑いには脳の活動を高める効果があることは生理的にも実証されている。