トムとアン 3

トムは、ビルズベリー社への就職を決めました。
普通ならこれで「めでたし、めでたし」と締めくくられてもおかしくありません。
実際彼は良く仕事をし、とんとん拍子に昇進しました。
愛するアンと結婚し、快適な家まで手に入れました。
残業も出張も多かったけれど、すべて給料の額で報われていました。

ただし、上向く暮らしとは裏腹に、トムは生き生きとした自分を次第に失っていきました。
自分の願っていた道から、はずれた道を驀進していたからです。

31歳のトムは、ビルズベリー社を退職しました。
そして、リンガー社というメーカーに転職します。
この会社は、ビルズベリー社に比べると規模はずっと小さいが、その分マイペースで仕事ができました。
トムは以前より増えた自分の時間を利用して、様々なボランティア活動に精を出し始めました。
新しい職場でも、トムはマーケティングの手腕を買われ部長に昇進していました。
ただ残念ながら、リンガー社は自分にふさわしい最後の居場所だとは思えませんでした。

それでもトムは、体の中にしだいにエネルギーが戻ってくるのを感じていました。
その大きな活力は、地元ミネソタ州のカンボジア難民へのボランティア活動にも注がれることになったのです。

 これがきっかけとなり、トムはさらにやりがいのある仕事へと導かれていきます。
州立ミネソタ大学が進める難民救済プロジェクトのスタッフになるのです。
給料は半減しましたが、大学の一員としても身分は保証され、長期の休暇がもらえる点も大きな魅力でした。