トムとアン 2

トムはアフリカに渡り、最初に食べたサンドイッチに入っていた3匹のハエ、スーダン南部でみた樹皮の剥ぎ取られた木々(飢えた人々が食べつくした跡)など、目にしたこともないほどの貧窮や気温が55度にまで達する過酷な自然に暮らす人々を目の当たりにして、改めて「宇宙船地球号」(地球を出入りのない1隻の宇宙船に例えたもの)の真の姿を深く知ったのでした。

トムにとってアフリカの旅は、人間として真に成長するために、避けることのできないものになりました。
トムはアフリカをあとにし、ヨーロッパを回ったのち南米のエクアドルの首都キトでふと立ち寄った本屋で、3人の若いアメリカ人の女性と出会いました。
そのうちの1人が、将来の妻アンでした。

1975年、トムとアンはアメリカに帰国しました。
大学4年生だったアンは、卒業に向けた勉強を始めました。
そしてトムは、いよいよ本格的に就職先を探さなくてはなりませんでした。
年齢はすでに26歳になっていました。

 トムは最初、父の会社のコネを利用しようと考えました。
4~5社面接を受けましたが、どうにも本気になれず、面接に行けば行くほどやる気がなくなってしまうのです。
もはや就職先の会社への関心を装うのさえ苦痛になったころ、ビルズベリーの本社で販売部長との面接がありました。
ところが、トムのそっけないほどの態度がむしろ部長の興味を引き、結局2人は仕事以外にもいろいろと語りあいました。
最後に部長がこう言いました。「君は進むべき道に迷っているが、進んできた道には信念があるようだね。むしろ最近の若者には珍しいじゃないか。どうだろう、我社のためにそして自分のためにここで働いてみないか」