ゴールドコーストの税関にて

投稿より

27歳の誕生日、私はオーストラリアに向かう飛行機に乗っていた。
ゴールドコーストに住む親友が誕生日パーティーを開いてくれるということで、有休を使い、一人オーストラリアに向かう決心をしたのはほんの数日前。
ぼんやり窓の外を眺めながら「ああ本当に来たんだなあ・・」と少し不思議な感覚に捉われていた。
やがて飛行機は着陸態勢に入り、ほどなくして空港に到着した。

空港のロビーに行けば友人が迎えに来てくれる。
英語をほとんど話せない私にとって何より不安な一人きりの時間が終わる。
でもその前に入国審査がある。
私はこの入国審査がどうも苦手で、過去2回の海外旅行においても苦い記憶しかなかった。
機械のように黙々と仕事をこなす入国審査官の前では、つい気持ちが萎縮し、挙動不審になってしまうのが嫌だった。
もう少し人間らしく扱ってほしいと切に思う。
友人は「女の子にはそんなに厳しくされないよ」と楽観的に言うけれど、私は全く気を抜くことができず、順番を待っている間中「サイトシーイング・・サイトシーイング・・ファイブデイズ・・ファイブデイズ・・」と答えるべき項目を何度も復唱していた。
私の英語の発音は典型的なカタカナ英語なので、余計に相手に怪訝な顔をされることが多い。

いよいよ私の順番が来た。
思った通り、審査官はロボットのように無表情の白人の男性だった。
シベリアンハスキーのような冷たい目で、私の顔とパスポートを注意深く見比べる。
やがて審査官は小さくうなずくと、何も言わずに入国のスタンプを押してくれた。

そして私にパスポートを返しながら彼は言った。
「ハッピーバースデイ!」
私は一瞬何を言われたか分からなかったが、すぐに自分の誕生日だったことを思い出した。
あわてて「サンキュウー!!」と言った。
審査官は微笑みながら一度だけ小さくうなずくと、次の瞬間には前を見据え、審査官の顔に戻っていた。