キャリアを手放す勇気 5

学生時代は、くそマジメな努力もある程度反映される面もあったのでやってこれたのですが、マッキンゼーは違っていました。
評価されるのはあくまで「結果」であって、「ちゃんと真面目にやる」は、いとも簡単にはねのけられました。
マッキンゼーは終身雇用の会社ではなく、大半は3年前後で卒業していく会社です。

お笑い芸人になることを決意し、マッキンゼーを辞める理由も自分の中で出そろいました。
とはいえ、やはり、にわかには信じられない状態が続きました。
レールから降りるのはそれなりに、とてもとても大変なことだと実感しました。
「これでいいんだ」と自分に言い聞かせるのは、たいてい夜眠る前でした。
でも朝が来てまたいつものように会社に行くと、オフィスの景色という妙にリアルな「現実世界」がドーンと待ち受けていて、私の衝動をいとも簡単に消し去ろうとするのです。

そんな時、とある同期の一言に救われたことがあります。
博士課程を出ているスマートで冷静沈着なその人と食事をしていたときに、お笑いの世界に行くという話しをしました。
すると、顔色一つ変えることなく「今から本気でやって、やれないものなんてないでしょう」と言ってくれたのです。
「なれない、なってはいけない」と自分をがんじがらみにしているのは、他ならぬ自分の思い込みでしかなかったのです。

そんな時、マイケルジャクソンが亡くなったというニュースが飛び込んできました。
出勤する道すがら、あのマイケルが亡くなったというのに、いつものように普通に朝日が昇り、地球が回り続けているということがすごく不思議に思いました。
マイケルがいなくても、日常は何事もなかったように平然と続いている。
ましてや、自分みたいなちっぽけな存在が芸人になるっていうだけで、何を大げさに考えているのだろう。
自分の中では、のたうち回るような決断でも、自分が大騒ぎしているだけで世の中には何の影響もありません。
そう思うといよいよ吹っ切ることができました。