ガンになってよかった

いつでも死ねる 帯津良一

自分の人生のラストシーンを、どのようにしたいのか、そこを見据えてシナリオを書き、物語を演出するのです。
私の患者さんの中には「ガンになって良かった」と本気で言う人がいます。
人生に締め切りが設けられたと、ガンになって心が昂ったわけです。
ガンになったことで生き方が変わる、価値観が変わる、ここにガンを題材にした物語のダイナミックさがあるのだと私は思います。

「がんを超えて生きるー生きる意味の再発見」という本に、ある乳がん患者の言葉が出ています。
「私たちが今、隣り合って座っているこの1秒1秒を、二度と戻ってこない1秒1秒を、もっと集中して生き、見ること。こんなことを昔は考えたりしませんでした。昔は1日がただ過ぎていき、家族がいて、時間が繰り返しのきかないものだとは少しも考えませんでした。もっと意識して、集中して生きたい。味わいたい。こうした思いを私ははっきり持つようになったんです」

ガンになったことで、精神的に成長でき、人間的にも成熟できたと彼女は言っています。
もしガンになった主人公が、「何も悪いことをしていないのに、どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだ・・」と、ずっと愚痴っぽいことを言い続けていたら、もう映画を見るのをやめて席を立ちたくなります。
しかし、ガンというマイナスの出来事を、成長の糧にできる人が主人公だと、その人を応援したくなるし、この後どうなっていくのかと、ラストシーンにも期待が高まります。