ガンが教えてくれるもの

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

「この人であれば、私の気持ちを理解してくれるに違いない」
医師には、患者さんにそう思わせる何かが備わっていることが望ましい。
ただ、その何かを体得することは、大変難しいことである。

母は、人工呼吸器に繋がれたまま逝った自分の父の最期を目の当たりにしたとき、目の前のガン患者さんたちの「理想的な看取りの実現」にむけた実践と啓発を人生のライフワークとした。
そこを原点として、信念を曲げることなく30年近く培ってきた年輪のようなものが、語らずして患者さんを安心させるオーラの一部になっているのだろう。

残念ながら、私には信念はあっても、それを醸成できるだけの時間は残されていない。
ただ、私は患者さんと同じ境遇に身を置くことになったおかげで、図らずも患者さんたちが心の垣根を取り払い、私に大切なことをいくつも教えてくれるようになった。
ガンになって良かったと思う人はこの世にいないかもしれないが、ガンが私たちに何かを教えてくれることはあるし、人生のどのような段階においても、やはり人は成長することができるのだ。