アルコール依存症

いのちの言葉 精神科医 なだいなだ

40年以上前になりますが、アルコール依存の患者さんを診ていました。
アルコール依存というのは、当時みんなから嫌がられていた病気で、それまで診てきた患者さんの誰一人として良くなっていません。
それなのに、その私が日本で初めてのアルコール依存症専門病棟の責任者になれということになりました。
それで「先生、私が責任者になったら、任命した先生まで詐欺だと言われますよ」と言いましたら、「お前、サギでもカラスとも呼ばれないから安心していけ。アルコール依存症は治らん。教授の俺がやっても治らない。それが助手のお前に治せるか。世の中そんなことは自明の理で分かっているから、患者さんをお前が治せなくても、とやかく言われないから安心しろ」と言われました。

そこで、考えました。
「どうぜ治らないなら、患者さんにつらい思いをさせてまで閉じ込めておく必要はない。24時間開けておくから、逃げたければいつでも逃げなさい」ということにしたのです。