もう手術どころではない

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

中央市民病院での検査が始まった。
モニターに映し出されたカルテの画像は、私の希望を一瞬にして打ち砕いた。
医師である私はもちろん、素人の妻にも分かるような、数ミリから2センチくらいの腫瘍が10か所ほど点在しており、そのうちの1つは、生命維持の根幹にかかわり、梗塞や転移が生じる多彩な症状を引き起こす脳幹にあった。

「ごめん、ステージ4や。もう手術どころじゃない」
私がそうつぶやくと、妻の顔が蒼白となり、両目から涙が流れた。
「肺がんの脳転移といえば、早ければ2~3カ月で死んでしまってもおかしくない状態た・・・」
妻がついに泣き崩れた。
「そんな・・・ひどい・・・あなたは何も悪いことしていないのに!」
私も涙声になった。
「ごめん!ごめんな・・・ほんとにごめん!」

5分間、泣きはらした私と妻は、涙をぬぐい、その場を後にした。
病院の外は、秋の夕方だった。
ハンドルを握る妻が、ふとこんな提案をしてくれた。
「今日は、やりたいことをしたら?何がしたい?」
私はその一言に救われた。
妻はいつも、現実を見ながら生きている。
「映画が観たいな」
そのまま、妻と共に映画館に行った。
館内にあまり観客はいなかった。
その閑散とした光景が、私の心を少し落ち着かせてくれた。

「自分も、これからは好きなことを優先的にしていこう」という気持ちにさせてくれ、少しモヤモヤが吹っ切れた。