どんな親でも我が子が心配

ココロの架け橋 中野敏治

ある日、授業を終えて職員室に戻ろうとすると、1人の職員が飛んできました。
「お酒を飲んでいるみたいな人が先生を訪ねてきていますよ。授業中ですと言ったんですが、授業中を終えるのを待つと言って、帰らずに相談室で待っています」というのです。
心当たりもなく、相談室に行きました。
ドアを開けると、そこには彼の父親がソファーに座っていました。
私も父親の前に座り、ゆっくりした口調で「今日はどうしたのですか?」と声をかけました。
父親はしばらく何もしゃべらずにいました。
しばらくすると、かぶっていた帽子を脱ぎ、酔ったうつろな目で私の目を見ながら話しだしたのです。
「先生、俺はこれから少しの間、仕事に出る。家を空ける。息子を頼む!」それだけ言うと、相談室から出ていったんです。

その日の夕方、母親から電話が入りました。
「今日は父親が酔って学校へ行ったらしいですね。先生、驚かれたでしょう。あの人、お酒を飲まないと学校へ行けなかったみたいで、ごめんなさい。あんな父親ですけど、息子が心配なんです。先生、ご迷惑かけてすみません。親もしっかりしないとだめですよね」
親が一番大切に思っているのは我が子なんです。
どんなことがあっても、我が子を心配しているのです。