どうぞおかまいなく

辛い気持ちが消えていく 斎藤茂太

私の妻は、何をやるにもスローペースで、外で待ち合わせをすると必ず待たされた。
それも5分10分ではない。
30分は当たり前、1時間待たされることもしばしばだ。
せっかちな私は、当然イライラする。

しかし私は、ある時からイライラするのをやめた。
イライラしたって、自分が損をするだけである。
血圧が上がり、心臓の動機が激しくなり、健康を害す。
やっと来た妻に「遅いじゃないか!」と大きな声を出し、通りがかりの人たちからしろい目でみられ、恥ずかしい思いをする。
その日一日、ずっとイライラすることになる。

一番のポイントは、私がどんなにイライラしようとも、妻が待ち合わせの時間通りにやって来ることはないだろうということだ。
そして思った。
「妻はすごい。俺がどんなに怒ろうが、イライラした顔をしようが、自分のペースを崩そうとしない。まったく、お構いなく、といった顔をしているぞ」と。
これなのだ。
人は人、自分は自分。
人からどう言われようが、思われようが、「おかまいなく」だ。
これが、マイペースで生きていくコツなのだと。

人と人というのは下手にかまいあって、相手にああしろ、こうしろと要求するよりも、お互いに「おかまいなく」で付き合っていく方が、うまくいくものだ。