ていねいに話を聞いてあげる

今日が人生最後の日だと思って生きなさい 小澤竹俊

どんなに親しい間柄であっても、どんなに心を込めて接していても、人には相手の気持ちを100%理解することはできません。
同じ職場で、同じように患者さんのことを想って働いていても、お互いの考えを完全に理解することはできないのです。
人と人は完全に理解しあえなくても、相手を理解者だと思ったり、相手に理解者だと思ってもらったりすることはできます。

かつて看取りにかかわった患者さんの中に、長年真面目に働き、定年退職後に奥さんと世界旅行をすることを楽しみにしている方がいました。
しかしあるとき、体調不良から検査を受けたところ、ガンが発見されたのです。
ガンは肝臓と脳に転移しており、治療は難しく、余命1年と宣告されました。
「一生懸命に働いてきて、老後は奥さんを労ってあげたかったのに」
「何のために働いてきたのか」
「自分の人生は何だったのか」
最初の内、その患者さんは絶望し、苦しみ、こまでの人生の意味すら見失っていました。

こうした患者さんに対し、私たちにできることは何か。
丁寧に話を聞くことしかありません。
たとえ苦しみは解決されなくても、辛いときに「辛い」という言葉を、苦しいときには「苦しい」という言葉をちゃんと聞いてくれる相手がいるだけで、つまり「この人は」、自分の気持ちを分かってくれている」と思える人がいるだけで、人は少しだけ、幸せな気持ちになることができます。