すがる患者さんを前にして

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

医師として、効果が実証されていない高額な代替医療を推奨するのは無責任ではないか、という考え方があるかもしれない。
私も同意見なので一度も推奨したことはない。
ただし、通院が難しい程度にまで衰弱が進んできたガン患者さんに対する強力な抗がん剤の使用もまた、科学的な根拠がないばかりか、有害事象で死に至らしめてしまう可能性がある行為だ。

衰弱が進んでいる患者さんに対して、高額だが何も起こらない可能性が高い代替医療を進める医師も、保険適応だが衰弱している患者さんに投与すると死んでしまう可能性がある抗がん剤を、患者さんが希望するからという理由で標準治療の枠から逸脱して投与してしまう治療医も、ひょっとしたら考えていることは同じかもしれない。

すがる患者さんを前にして、自分ができることを提供し続けなければという強迫観念にも似た思いが、医師の判断に影響しているのではないだろうか。