しっぺ返し

死ぬときに幸福な人より

70代男性の患者さんは、実業家でもあり政治家でもあったお父さんを目標にしていましたが、夢かなわず実家の家業を継ぐことになりました。
でも家業は人に任せ、結婚して子供が生まれても家庭を顧みることはなく、外で遊んでばかりいました。
奥さんは、彼が60代半ばの時に亡くなり、それを機に父親を敬遠していた息子さんは、まったく家に寄り付かなくなりました。
やがて彼自身も肝臓がんで余命僅かと診断されました。
その途端、遊び仲間たちはいっせいに彼の周りからいなくなり、息子さんをはじめご家族も親戚も見舞いには訪れませんでした。

人生の最終段階で人から見放されてしまうこと、心の安らぎを与えてくれる存在を得ることができず、本当の幸せを知ることなくこの世を去る瞬間を迎えてしまうこと、それは最大の不幸であり悲しみだと言えるかもしれません。

お金やお金によって築かれた人間関係が、必ずしも自分を幸せにしてくれなかったと気づき、身の回りの人を大事にしようという気持ちになっていれば、彼の人生の最終段階のありようは、また違ったものになっていたかもしれません。