お父さんのカメラ 1

「うちにはお父さんがおらんからね!」
私がわがままを言うと、決まって母はこう言った。
そう言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。
小学1年生のときに父が亡くなって以来、母一人でどれだけ苦労して私を育ててくれたか、痛いほどわかっているから。
無意識にテレビの上に置いてあるカメラに目がいく。
父が大切にしていたカメラ。
父がいたら、私はもっと欲しいものを買ってもらえたのかなあ。

その日は、友達のめぐみちゃんのお誕生日だった。
プレゼントを買うお金がない私は最初、断ろうと思っていたが、めぐみちゃんが「そんなのいいから、絶対来てね!」と言ってくれたので、行くことにした。
ダメもとで母に「プレゼント買うお金ちょうだい」と言ってみたけれど、案の定また叱られてしまった。
結局、私は手ぶらのままめぐみちゃんの家に行った。
プレゼントを持ってきていないのは私だけで、みんなはゲームをしたりケーキを食べたりして楽しんでいたけど、その間私はすごく居心地が悪くて、プレゼントを渡す時間になっても、私は一人隅っこでもじもじしているしかなかった。
「ゆかりちゃんも来てくれてありがとうね」めぐみちゃんのママが声をかけてくれたが、そういう気づかいが余計に苦しかった。

さらに帰りがけ、めぐみちゃんが「はい、これゆかりちゃんの分!」といって、お菓子の詰め合わせをくれたときには、もう恥ずかしくて死にそうだった。
めぐみちゃん家は、お誕生日会に来てくれたみんなのためにプレゼントのお返しを用意してくれいたのだ。