おまえ、乞食になれ

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

担任の先生も、お母さんを通じて進学させようとしてくれましたが、無理でした。
どっぷり落ち込みましたが、それでも家事をしないと許されません。
明日のお米を研いでいると、珍しくお父さんが台所に顔を出し、書斎に来いと宮田さんを呼び出しました。
「お前、高校に行かないことは決定だが、中学を卒業したらどうするつもりだ。俺は、卒業した人間を家に置いてやるつもりはないぞ」
「お父さん・・・」
「ちゃんと学校を出るんだから、家を出て行かなくちゃな」
この時ばかりは、涙が出そうになりました。
しかし、兄もそうやって家を出され、今では住み込みで調理人の修行をしているのです。
すると急に優しい声になり、お父さんが言いました。
「そんな顔をするな。お前の将来について、俺なりに考えていることがある。あのなあ、お前乞食になれ」
子どもに乞食になれなどという親が、日本中どこにいるでしょう。
「乞食はいいぞ。凍え死にそうなとき、飢え死にしそうな位おなかがすいているとき、人に助けてもらえば、ありがとうございますと、心の底から人様に感謝できる人間になる。この体験があって初めて、人のために尽くせる人間になれる。最高の人生修行だ。大体こんなにモノが余っている世の中だ。乞食が食べるものくらい、あふれるくらいある。やってみたら、やみつきになるぞ」