おばあちゃんの宝物 3

おばあちゃんの真っ白い髪は、ばさばさに乱れました。
目じりも下がって、強気だったころの面影はどこかに消えてしまいました。
一日のほとんどはベッドで横になったり、椅子に座ったまま。
お母さんにも家に来てもらって、二人でおばあちゃんを介護する生活が始まりました。

そして迎えた73歳の誕生日。
その日のおばあちゃんは比較的調子が良さそうで、会話の受け答えもしっかりしていました。
私が「おめでとう。今日おばあちゃんは73歳の誕生日なんだよ」と声をかけると、おばあちゃんはすっかり弱弱しくなった声で「そんなに生きたっけねえ」と呟きました。
「ねえ、おばあちゃん」
「・・・はい?」
「なんか、ほしいものとかある?」
「ほしいものねえ」そのまま黙ってしばらくして「ないねえ・・・」。
場が重くなり、話題を変えようとすると「そうそう」と言って、おばあちゃんは、ゆっくり立ち上がりました。
タンスの引き出しの中をごそごそして、おばあちゃんが無言で取り出したものは一枚の紙きれ。
その裏にはマジックで字が書かれていました。

”エリカの肩たたき券”
それはずっと昔、私が小学生の頃にプレゼントしたものでした。
「覚えていてくれたんだ・・」
「これ使えますか?」
「もちろん」私はこみ上げるものを抑えてうなずきました。
すっかり細く小さくなった肩をそっと揉み始めると、あばあちゃんは気持ちよさそうに身をゆだねてきました。
おばあちゃんは向こうを向いたまま言いました。「エリちゃん。ありがとね・・」
それは、いつもの優しい声でした。
我慢していた涙が溢れてきました。