おせっかいが巡り巡って

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

こんなこともありました。
父の運転する車で出かけて時のことです。
自転車で1人、田舎道を走っている若者を見つけた母は、いきなりぽーんと父の肩を叩きました。
「お父さん、車止めて! 早く早く」
何事かと急ブレーキを踏んだ父をほったらかしで、母はするすると車の窓を開け、自転車の若者に声をかけました。
真っ黒に日焼けしたその大学生は、日本1周旅行をしているというのです。

母のおせっかいの始まりです。
「どこから来たの?から始まって、そんなやせた顔して何日もの間、ろくなものを食べていないのではないか、そのかばんの中身は何?、洗濯物がたまっているでしょう」などと、あれやこれや話しかけ、結局、無理やり家に連れて帰ってしまいました。
遠慮する大学生をまず風呂に入れ、荷物を取り上げるとパンツもTシャツも全部洗濯し、ご飯を食べさせて、母がとことん世話を焼いた後、彼は2晩泊まって旅立っていきました。
弁当まで作って送り出したので、別れ際に、大学生は感極まって泣いていました。
そして、僕がそれまで見たこともない分厚い令状が届きました。

さすがに僕も、子ども心に不思議に思いました。
うちのあ母さん、どうしてそこまでやるのか・・・。
問うてみると、母はこう言いました。
「これがお母さんの普通なんや。だって、お前もある程度大きくなったら、人の世話に一杯ならなああかんやろ。今、お母さんが人の世話をしておけば、お前もいつか一杯世話をしてもらえるやろ。順繰り回って当たり前のことや」
その言葉通り、今まさに僕は一杯一杯、人の世話になりっぱなしです。