ある一日

投稿から

それはニューヨークの耐えがたいほど蒸し暑い8月の午後でした。私はバスに乗り込んだとき、その運転手に驚きました。
彼は初老の黒人で、私が乗り込むと心からの微笑みを浮かべながら「こんにちは、調子はどう?」と親しげに挨拶をしてきたのです。
他の乗客も私同様みんな驚いていましたが、挨拶を返した人はほとんどいませんでした。

そしてバスが渋滞の中、住宅地をノロノロと進むにつれ魔法のような変化が起きました。
運転手が通り過ぎる景色を生き生きと実況放送を始めたのです。
「あの店ではすごいセールをしていたんですよ!」「この美術館の展覧会は素晴らしかった。みなさんご覧になりましたか?」「この先の映画館で封切られたばかりの映画の噂は耳にしましたか・・?」
さらに運転手さんは「私たち乗客の幸運」について独り言を言い始めたのです。

町に息づく豊かな可能性に対する喜びは乗客の間に広まっていきました。乗客はバスを降りる頃には、乗り込んで来た時の不機嫌さはなくなっていました。

そして運転手さんが「さようなら、良い一日を!」と一人一人に声をかけると、乗客も微笑みながら「グッドラック」と挨拶を返していました。