あなたと一緒にいるだけで幸せです

辛い気持ちが消えていく 斎藤茂太

その人から好かれたい、嫌われたくないと思うあまり、がちがちに緊張してしまい、言うことは支離滅裂、声が上ずって自分でも何を言っているのか分からない。
お茶をひっくりお返して、その人の着ているものを濡らしてしまう・・といった失敗もする。
そしてその後、不思議な心理現象が起こる。
「ああ、これで完全に嫌われてしまったな・・・」とがっかりはするが、しかし、心のどこかではホッとした気持ちにもなっている。

人から嫌われて安心するというのは、おかしな心理ではあるが、今まで自分を縛りつけていたものから、これで解放されるといった喜びが生まれる。
そして、そういう解放感、安心感をもって人に接するほうが、図らずも相手から気に入られ、好かれもするのだから不思議になってくる。

若い人は好き嫌いで、人と付き合おうとする。
しかし、好き嫌いという感情で人と付き合おうとすると、人間関係は往々にしてぎくしゃくする。
恋人との関係がつらくなるのは、好き嫌いで付き合っているからだ。
年老いた老夫婦が、仲良く円満な関係を保っていられるのは、好き嫌いなどという感情を、もはや超越してしまっているからだ。
あえて言えば、好き嫌いではなく、「何となく幸せ」という気持ちで、人とは付き合ってもらいたい。
私は「あなたと一緒にいるだけで幸せです・・!」という気持ちがあれば、好きな人の前でがちがちに緊張してという失敗も無くなるのではないだろうか。